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春木屋@荻窪

 1979年当時の荻窪「春木屋」に行列はあったのか

初めて春木屋を訪ねたのは1979年(昭和54年)3月27日である。「angle」に載っていた75店中60店目だった。当時の僕にとって荻窪が遠かったせいか,紹介記事の内容があっさりしていたせいか,かなり後の順番になった。「老舗」とは紹介されていたが,早くこの店のラーメンを食べてみたいと思わせる記事ではなかったのである。当時の荻窪はまだ駅ビルもなく,春木屋のある商店街ももっと長い並びだった。そのはずれに春木屋はあった。場所的には今と同じなのだが,探してはずれまで来たという印象を持ったのである。平日の午後だったろうか,薄暗い店内に他に客はなく,記事の写真に載っていた店主(先代)が1人調理場にいたと思う。カウンターに座り中華麺を注文,350円だった。静かなので緊張した(気まずいとも言う)中で食べたラーメンの味はというと・・・普通のオーソドックスな支那そば。当時の僕の味覚では少なくともそう感じた。そしてその記憶がその後ずっとあったのである。75店の中では,その他大勢の店だった。

※当時の春木屋の写真が「春木屋郡山分店」のHPにある(「春木屋紹介」の「春木屋のはじまり」の項)。懐かしい・・・。

春木屋の名前を再び聞いたのはその5,6年後(昭和60年前後)だろうか。愛川欣也の「探検レストラン」という番組の中で「ラーメンの町荻窪」の「東京を代表するラーメン店」として春木屋を取り上げていたのである。「あの春木屋はそんなに有名だったのか」と単純に思って見ていた。番組の趣旨は超有名店2店(春木屋と丸福)にはさまれた売れないラーメン店「佐久信」を売れる店にしようというものだった。ちなみにテレビを見てその「佐久信」も行くには行ったが,ワンタンメンを食べて友人と苦笑した記憶がある。理屈だけではうまいラーメンはできないものなんだなと思ったのである。記憶としてはそのあたりからマスコミが,ラーメンを一つのジャンルとして取り上げてくれるようになったような印象がある。私の食べ歩きも学業と仕事と帰郷(茨城へ)の関係でこの時期ずっと停滞していたので,また食べ歩きをしてみたくなったのである。

さて春木屋についてだが,店もしゃれたビルになり,以後いつ行っても行列の店として有名になった。1990年代に入ってからだろうか10年ぶりくらいで久しぶりに春木屋に行ってみた。店内もこぎれいになり,店員も増えていた。そして倍近い値段になったラーメンを食べてみた。そしてうまいと感じた。食べる側の心構えの違いかもしれないが,10年前にはもたなかった感動をもったのである。私の持論としてこういった支那そば系のラーメンは「元気」がなければならないと思っている。スープはきりっと熱く冷めない,麺はほどよく固めで,薄く味付けされたメンマはシャキッとしている。チャーシューは脂身が少なくてもやわららかい・・・そのときの春木屋は全てを満たしていた。調理場での無駄口はなく職人はラーメンづくりに専念していて,店員は礼儀正しく,店も清潔,まさにうまいラーメン店の見本であった。春木屋にはその後何度か行っているが,その印象は多少の波はあるものの変わってはいない。

春木屋のラーメンはくせになる味ではない。あっさり好きの人にとっては少々濃いめの味かもしれない。そんなところが,いわゆるラーメン通の人の間でも,批判の対象になりこそすれ,今さら話題になりづらい理由かもしれない。だが春木屋は,私が「はじめに」で書いたうまいラーメン店の条件 『店主のラーメンに対する思い入れと研究熱心さがいつも感じることができる店』を満たす数少ない店の一つだと思う。ただ心配なのは,「老舗」春木屋がラーメンの高級店となり値段が上がっていくのではないかということ。庶民の味「ラーメン」を高級ラーメンと普通のラーメンに分けるようなことは,少なくとも東京ラーメンを代表すると言われる春木屋にはしてほしくない。チャーシューメンならともかく基本となるラーメンが800円を越えるようでは歯止めがきかなくなると思えるのだ。20年前の春木屋は「老舗」ではあっても「高級店」ではなかったのだから・・・

そんなわけで,久々に「春木屋@荻窪」に行ってみる。8時過ぎで店前に並んでいる人がいないのが見えたからだ。中華そばは現在750円になっていた。しかも大盛は+200円,チャーシューは+500円,ワンタンは+400円・・・。つまり「大盛チャーシューワンタンメン」はなんと1850円と言うことになる。これはラーメンの値段なのだろうか。心配していたことが現実になりつつある。そう考えると,「ぁりがとうござぃましたぁ〜」と言う聞き慣れた店員の応対も,何か歌でも歌っているような,感情のない白々しい響きに聞こえる。(00/09/15)=「食べ歩き日記」より

2004年2月01日(日)

今日はラーメンマニアではない普通の友人2人と出かける。でも食事はラーメンなのは暗黙の了解(笑)。僕としては「蒙古タンメン」を経験してもらいたかったのだが,「激辛なんかではなく普通のラーメンが食べたい」と言う友人のリクエスト(そりゃそうだろう)に応えて,東京ラーメンの基本中の基本とも言うべき「春木屋@荻窪」へ。珍しく行列がない。中華そばは750円。基本のラーメンがこの値段というのははっきり言って高い。表面の油で熱々のスープ。麺を追加追加で10人前ほど一度に茹でていたので,案の定茹で過ぎの麺。いくら麺上げを手早くやっても,最初と最後では1分以上の差が出るのだ。平ざるでは調整もできない。具を乗せての出来上がりから差し出されるまでにまた時間がかかる。低いカウンターからじっとそれを見ていることになるので余計気になる。一番の売りである麺のプルプル感が足りないのだ。それでも友人達にはそれなりの評価だったのが救い。

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