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1975年の「東京ラーメン穴場十傑店」@「食々々」 No.4 [1975](みき書房)

「とらさん会議室」の中で,千葉在住の「ぷに」さんという方が「1975年のラーメンリスト」という投稿をされた。1978年に食べ歩きを開始した僕にすれば,さらに前のリストと言うことになる。興味を持ちレスポンス投稿したところ,ありがたいことにわざわざその資料を送ってくださった。と言うわけで,今,目の前にその資料がある。

「食々々」(あさめし ひるめし ばんめし)1975年(昭和40年)第4号75年秋号の特集であるそれは,「東京ラーメン穴場十傑店」と言う題名。K.K.相互代表取締役と言う肩書きを持つ小宮山弘氏のラーメン食べ歩きエッセイといったところである。その出だしを引用する。

「十人十色と言うが,私たちの舌もさまざまだ。私が推すラーメン屋に友人を連れてゆくと「フーム」と,のってくれぬのもいる。そののってくれぬ友人が推す店へ連れてゆかれると,今度は私の方が「フーム」と,いわざるをえないこともしばしばである。」

昔も今も「旨いラーメン店」を他人に教えることの難しさは変わらないと言うことか。こうして小宮山氏が推す店は以下の通りである。

  <店名> <当時の住所> <当時の値段> <コメント>
01 東東居 中央区銀座1ー8 ラーメン350円 汁が濃厚(ドロリコッテリ),メンマも柔らかい,ベトナム麺てのもある
02 新雅 港区麻布1ー8 ネギそば400円 脂が浮いていて汁が全然冷えない・赤い彩りをつけた千切り焼豚
03 太鼓番 中央区宝町4 ラーメン250円 ごま油を使ったコッテリ濃厚な汁・ウズラの茹で卵・刻んだ焼豚
04 大勝軒 豊島区東池袋4ー28ー3 中華盛り220円 「なんといわれようと,私はここの特製もりそばに惚れぬいている」
05 いすず 千代田区秋葉原駅 ラーメン 「あっさりした汁で麺も吟味しているしするするやれてうまい」
06 光江 台東区下谷2ー1ー9 中華そば200円 「戦前のシナそば屋で食べている気になる」「江戸の下町風」
07 あじさい 足立区綾瀬4ー24ー14 あんかけ麺400円 主人は三宅島出身・「しつこくなく味付けがびっくりするほど関西風」
09 さぬきや 板橋区常盤台1ー58ー3 ラーメン280円 通称「環七ラーメン」(のちの土佐っ子)「腹にズシンとくる味」
09 進京亭 板橋区東新町1ー11ー17 ラーメン200円 「麺が太めで汁がどこか和風的で評価が分かれるかもしれない」
10 永楽 品川区大井5ー3ー2 ラーメン200円 平打ち麺・汁の中に浮いた黒い粉(こがしネギ)が風味を加えている

僕の食べ歩きのきっかけとなった3年後のangle「味自慢のラーメン店75店」には,この10店は全て入ってはいない。従って当時の味というのはわからないのであるが,「大勝軒」「いすず」「光江」「永楽」「さぬきや」には後の情報から食べに行ったことがある。いずれも当時の自分を納得させるものだった。当時を懐かしむなら「大勝軒」と「永楽」は昔のままなので,今でもその雰囲気と味を楽しむことができる。

この資料には「随筆・ラーメン」として食味評論家の多田鉄之助氏のエッセイも載っている。印象的な部分を引用する。

「では,ラーメン屋成功の秘訣は何かというと,安くてうまいラーメンを食べさせるだけを心掛ければいいのである。それができないのは,うまいラーメンの味を試みたことがないからである。そんなうまいラーメンをコストを安くできる訳がないという声が多いが,それは自分が手をかける,古い言葉でいうならば,丹精するという気持ちさえあればできるのである。少しでも手を抜いて,横目でテレビを見ながら,鼻唄交じりの上の空で,どうしてうまいものが出来るものかというのである。平凡な言い方であるが,手間を掛ける事を嫌うな,心入れや親切を,コストの中に入れるな,という考え方で,その道理の分かる人だけは立派な技術者になって成功しているのである」

さらに最後にこう加えられる。

手作りのラーメンは,作る者の個性や風格,心持ちなどが加わって更に,そこに生きた美味が生まれてくるのである。ラーメンの将来は益々明るいと見てよい。それにしてもこれからのラーメンは作る人の個性が,くっきり出ているものが勝を占めることになろう。

   ラーメンを食べ歩いて20年以上になるが,ここ4〜5年のラーメンの多様化は目を見張るものがある。「旭川ラーメン」と「家系ラーメン」の台頭,「和歌山ラーメン」のブームがその要因であると思う。そしてその中で,多田氏の言うように「ラーメンを作る人の個性がくっきりでているもの」が「勝ちをしめる」,つまり多数の人から評価され「人気店」「行列店」になっているようだ。「武蔵」「青葉」「雷文」「がんこ」・・・みんな個性の固まりだ。店主の顔が見えるラーメン店である。研究心も旺盛のようだ。多田氏の予想した店とはこういう店だったんだと思う。

   最近出た「東京1週間」(1999.6.8号)の「完全無欠・首都圏ラーメンランキング」BEST100の上位50位に,20年前の「名店」はほとんどない。わずかに丸長(5位),大勝軒@東池袋(21位),ラーメン二郎@三田(26位)が見えるだけである。しかも,その8割は1990年代に開店した店だ。インターネットやテレビで有名な方々が選んだという特殊性(より新しい店に興味が移る傾向があると思う)があるにせよ,事実としてかつての「名店」を明らかに超えてる店が多いのもまた然りである。ここまできたら,その先には何があるのだろう。もっと明るくなるのだろうか。いずれにせよ「研究心」「向上心」のないラーメン店にはよりつらい時代が来るのかもしれない。(1999.6.5)

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